木の日の研修
12万年ブナの彷徨・驚異の立山巨大杉
2017年7月6日(木) 林友ビル6階会議室

 講師は『日本の森 列伝』(ヤマケイ新書)(山と渓谷社)の著者です。講師が北海道から沖縄まで、強烈な個性と存在感を持つ森を訪ねあるいたなかから「北限のブナの森」と「立山の巨大杉群の森」について講義がありました。

● 北限のブナの森
 ブナが自生する北限の地は、北海道渡島半島の「黒松内(くろまつない)低地帯」と呼ばれるところである。日本海と太平洋を結ぶ最短距離の陸地帯で、いつも霧が流れる雲霧帯でもあり、積雪2mの冷温帯から亜寒帯への分岐点でもある。

 ブナという種が誕生したのは150万年前。地球上に氷河期と間氷期が繰返され、10万年を超える時間の中でブナは日本列島を南に北に彷徨した。気候の寒暖に合わせて生息域を南下させたり北上したりしながら、本州北端にたどり着いたのが9千年前のことである。 津軽海峡のため3千年の足止めがあって、北海道に上陸したのが約6千年前。現在の北限の地にたどり着いたのが1千年前とのこと。

 ブナの北進を助けたのは、冬の食べ物としてブナの種を貯食する習性のあるホシガラスやカケスが遠くまで運んだのではないか、と考えられている。ブナの種が津軽海峡を渡れたのは、縄文人か鳥か、偶然か、謎のまま残っている。北海道ではミズナラやカンバ類の繁茂の中でなかなか北進できなかった。函館から北限の地までの100キロに5千年かかっている。

 明治時代以降の大規模な開拓で原生林のほとんどは姿を消した。またニシン漁が森林伐採に拍車をかけた。かろうじて伐採の嵐から免れた黒松内町の「歌才(うたさい)ブナ林」は、貴重な存在として1928年に国の天然記念物の指定されている。伐採の危機の時期もあったが、学者や住民の手で「北限ブナ自生地」は守られた。

 北限のブナは 葉っぱが大きくて、開葉の時期が他の木よりも早いフェノロジカルギャップを活かして、森の主役になった。成長のスピードが速い、真っ直ぐに幹をのばすなどの特徴がある。雪がブナを育んでいる。

 温度環境からブナは北海道のほぼ全域で生育が可能であるとされているが、どうして黒松内にとどまっているのか。なぜ黒松内が北限なのか、諸説があるが説得力のある決定打はないとのことである。研究者によっては、ブナはまだ北進できるが、そのためにはもっと侵略のエネルギーの膨張と時間が必要であると。そして、人による大規模な開墾でブナの森が分断し孤立している、人の圧力が北進のエネルギーを奪っている、とも指摘されている。

 北海道はブナの適地であるが、ブナは100年では北進できない。そのため地球温暖化の影響により100年後には壊滅な打撃を受けるのではないか。気候変動のシナリオによっては、日本列島のブナ林はほとんど消滅してしまう恐れがある。

● 立山の巨大杉群の森
 立山の巨大杉群とは、美女平(1000m)から弥陀ヶ原(1600m)までの尾根に広がる300ヘクタールの天然スギの森のことである。胸高幹回り3m以上(巨樹の定義)のものは200本超え、6m以上のものが147本ある。屋久島を凌ぐ巨大杉群である。ここに樹齢2000年の杉のドラマがあるという。さまざまな姿のスギが見られ、奇抜で迫力に満ちた形をしている。

 スギは日本の固有種で、スギのふるさとは東北であるが、現在の北限は青森県、南限は鹿児島県屋久島である。

 スギは夏の気温が24℃に達しないと花粉を作ることができない。豪雪のため実生では育たない。氷河期に子孫を残す秘密兵器が伏条(ふくじょう)更新にあった。根元近くから萌芽枝を出す繁殖のための特別な枝である。スギは豪雪に痛めつけられているが、雪はスギを守る外套にもなっている。

 加賀藩の掟には、スギなど7種の樹木の伐採を禁止する「七木の制」があったが、<剥ぎ取り>という他では見られない無残な独特の傷跡がある。太い幹の真ん中に、木部をむき出しにされた、剥ぎ取り跡が幹周囲6m以上の巨大杉の半数に残っている。材木に使ったのであろうが剥ぎ取りの記録は残っていない。

 古代から無数の伐根の歴史がある。伐採は奈良時代から始まっている。古い切り株を調査するとわかる。伐根は稚樹のゆりかご。伐根の上にスギの種が落ち、若木が育つチャンスになる。次世代が生まれる。<根上り杉>や<シメジ>といわれる幹が何本も立ち上がっているスギが多数ある。緩やかな択伐が世代交代を促した。「伐採は森林破壊」という単純な見方では、とても理解できない森である。

 現在、自然保護という名目で木を伐らないが、このままではいずれ森が消えてしまうのではないか。

講師:米倉久邦(ジャーナリスト、元共同通信社論説委員長、森林インストラクター)
参加者数:36名

 (報告:中垣 成)



講師の米倉さん


講義風景


天然記念物「歌才ブナ林」


立山巨大杉のさまざまな姿


立山巨大杉の剥ぎ取り痕

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